第十五章・集いし絆

 

 

 黒鵺が消息を絶ったという知らせは当然、旧雷禅国にいる蔵馬と幽助の元にも届いた。傀儡と化したテロリストの大群をようやくあらかた撃退して、一息ついたところに入ってきたこの連絡に、蔵馬は愕然とした。

 変死した諜報員の死亡現場に赴き、そこで蘇空時読結界をはることは聞いていたが、まさかこんな事態の急変が起こるとは予測していなかった。諜報員の死には、確実に魔忍が絡んでいるだろうとは思っていたが、すでに亡き者となっている以上、死亡現場も敵にとってノーマークかと思われていたのだ。

 「黒鵺に結界を張られることを、雹針が予測していたとしても、旧雷禅国と癌陀羅に同時総攻撃を仕掛けるこの日に、そこへ労力を割く事はないだろうと考えていたが・・・・・・甘かったか」

 悔恨を滲ませた声音が掠れる。蔵馬はいてもたってもいられず、立ち上がった。先ほどまで旧雷禅国防衛のため、彼も幽助と共に最前線に立っていたのだが、その際の決して小さくは無い疲労など、一瞬で忘れた。

 「とにかく、オレも諜報員の死亡現場を確認してくる。消息不明といっても、GPS反応が途絶えた、と言う事しかわかってないみたいだから、もしかしてまだ黒鵺がそこにいるかもしれない」

 「オレも行ってやろうか? こっちはもうだいぶ落ち着いたみてぇだし、北神達に任しときゃあ問題ねぇだろ」

 「いや、幽助は残っていてくれ。雹針が魔界で確認されていない以上、油断したらまたすぐに不測の事態が起こるかもしれない」

 はやる心を宥めながら蔵馬は、かつて雷禅がそこに座していた国王の間をでるため、入り口に向かって歩き出そうとした。正にその瞬間だった。

 「蔵馬、いるか! 無事なんだろうな?!

 背後の窓から、聞き慣れた声と羽音が同時に飛び込んできたのは。弾かれたようにふりかえると、息を切らし肩を上下させた黒鵺が、窓枠を越えて中に入ってくるところだった。

 「いやいや、無事か? ってのはこっちの台詞だぜ!

 驚愕と安堵で思わず絶句した蔵馬に代わるように、幽助が声を上げる。

 「オメー携帯どうしたんだよ? GPS反応が無ぇってんで、消息不明扱いんなってんだぞ」

 「あ〜、さっきちょっとドンパチあってな、そん時にぶっ壊れちまってよ」

 肩をすくめ何でもないことのように黒鵺は言ってのけたが、よく見ると身体のあちこちに小さな傷ができている。とはいえ重傷も、毒などにやられた症状も見受けられないので、蔵馬は改めて胸をなでおろした。

 「魔忍と戦ったのか? 今部隊長クラスは吏将しかいないはずだし、てっきり向うの戦力は全員癌陀羅戦と、次元のひずみ占拠に振り分けられていたと思ったんだが」

 「や、それが……オレにケンカ売ってきやがったのは、魔忍じゃねぇんだよ。雹針の子飼いではあるけどな」

 「するとつまり、ドクター・イチガキのような協力者が、まだいたと?

 「あぁ、よりにもよって、戸愚呂だった。雹針の野朗、あいつを邪念樹から解放して、魔忍達同様にドーピングしてたんだ」

 息を飲んだ蔵馬の隣で、幽助が「げ」と苦虫を噛み潰したような渋面になる。

 「あんにゃろう……しぶてぇっつーか、マジでうんざりだぜ」

 「もしかしなくても、オレに報復するため黒鵺を殺そうと?

 押し殺した怒りを声に乗せて、蔵馬が眉をひそめた。

 「そーいうこった。妖力以上に人格がかなりアレなことになってたけど、幸い大して苦戦はしなかったんだが……」

 そこまで言って、黒鵺はバツが悪そうにため息をついた。

 「悪ぃ、取り逃がしちまった。ひょっとして、今度は蔵馬の方を狙うんじゃねぇかと思って、こっち飛んできたんだけどよ、どうやらいねぇようだな」

 あれは不覚だった、と、黒鵺は悔しそうに呟いた。

 

 

 「だから言っただろ。弟子にも勝てなかったゲス野朗が、師匠に勝てると思うなってよ」

 呼吸一つ乱されること無く、黒鵺は悠然と口の端に笑みを浮かべて言い放った。白銀の鎌の切っ先が閃く先、戸愚呂は歯が砕けんばかりの勢いでぎりぎりと歯軋りを繰り返している。

 かつて室田の『盗聴』の能力を喰った時、これでどんな相手の出方も完璧に読めると悦に入ったものだが、しょせんは普通の人間に宿った能力。読み取れるのはせいぜい、表層意識の一部にすぎない。

 黒鵺のような、魔界に生まれ魔界で生きてきた妖怪にとっては、他者の心の声を盗み聞く類の能力など、さして珍しくも無い。自分の思考が読まれぬよう、心に蓋をして悟らせないようにするくらい、朝飯前だった。

 その上、黒鵺はもちろん戸愚呂も知らなかった事実がある。雹針は確かに戸愚呂を強化したが、その強化レベルは吏将や爆拳といった部隊長クラスに比べると、実は格段に低かったのだ。有効な駒が必要だったとはいえ、偶然拾った新参者をそこまで優遇するつもりなど、雹針には毛頭無かった。。

 「オレは基本、雑魚は無理に追い詰めず見逃してやる主義なんだが、てめぇも少なからず魔忍や雹針の内情知ってんだったら、そうはいかねぇな」

 まして蔵馬に憎悪を抱いているとなると、ますます甘い顔はできない。厳しい面差しに切り替わった黒鵺に、戸愚呂はそれでも金切り声でわめきたてる。

 「調子に乗ってんじゃねぇええええ! 霊界のお情けで舞い戻った死にぞこないが!!

 叫んだのと同時に、戸愚呂の全身の皮膚が変形する。長い針のように尖って、それが何本も何本も、黒鵺に向かって一瞬で伸びる。暗黒武術会の準決勝で、戸愚呂チームの勝利を決めた時を彷彿とさせたが、その結果は当時と今とでは全く逆だ。

 黒鵺は両手に装備した鎌を、くるくると器用に操って、戸愚呂から伸びてきた針を片っ端から叩き斬っていく。血と肉片が飛び散り、針はすぐまた再生していくが、それでも黒鵺を捕らえることはできない。

 「そろそろお縄についてもらうぞ。汝、その拘束の生贄となって――」

 戸愚呂の動きを完全に見切り、黒鵺は怨牢束壁結界をもって、相手を捕縛しようと詠唱を開始した。しかし、その途中で事態は思わぬ急変を見せる。

 「おい、黒鵺だ! 77戦士の黒鵺がいるぞ!! 戸愚呂もだ!

 偶然、この近辺のひずみに張り込んでいた魔忍達が、戦闘の気配に気付いてしまった。図らずも援軍を得た戸愚呂は、ニヤリと口元をゆがめて魔忍達に声を飛ばす。

 「ちょうど良かった、加勢頼むぜ! こいつ抹殺指令が出てんだ。手柄は譲ってやるからよぉ!

 「なっ、お前!

 黒鵺にとって、魔忍といえどもその他大勢の輩など敵ではないが、なにぶん数が多い。騒動の隙を突いて、戸愚呂が逃走を企てているのは火を見るより明らかだ。そのやり口が気に入らず、黒鵺は怒りを込めた眼差しで戸愚呂を射抜く。

 しかし当人は涼しい顔で、さらに魔忍をけしかけるのみ。

 ちなみに、この時は黒鵺も戸愚呂も知る由は無かったが、この魔忍達は伝令により、癌陀羅総攻撃作戦が失敗して、吏将が死々若丸との戦闘に敗れたとの一報を聞き、瞬間移動の魔法陣を用いて撤退準備をしていた矢先だった。

 移動先は魔界内の、一時的な基地で、人間界に移転した新しい隠れ里ではないが、このまま何一つ戦果を挙げられずに撤退すれば、ただではすまないだろうことはわかっている。

 てぶらで雹針の前には出られない。そんな彼らにとって、77戦士の抹殺遂行はおあつらえ向きの獲物だった。

 「よ、よし、皆! 黒鵺の首、討ち取って里長への手土産にするぞ!

 「おう!!!

 あっさり戸愚呂に乗せられた魔忍達は、それぞれ一斉に妖力を解放して、黒鵺に集中攻撃を仕掛ける。応戦するのは苦ではなかったが、視界の隅で戸愚呂がまんまと背を向けこの場を逃げ去っていくのが見えた。鎌を投げて阻止しようとしたが、混戦状態だったため魔忍の方に当たってしまい肝心の戸愚呂には届かなかったのだ。

 

 「と、まぁこんな訳でよ。とりあえず魔忍共はぶっ倒して結界ん中に捕縛しといたんだが、近くにはもう戸愚呂が見当たらなかったんで、こっち来てみたんだ」

 「そうだったのか……でも少なくとも、こっちで戦った敵の中に該当者はいなかったと思う」

 「操血瘤で操られてる連中ばっかだったしな。そうじゃねぇ奴が混じってたら、目立つだろうし。北神達からも、それらしい報告は受けてねぇよ」

 「あるいはもしかして」

 蔵馬の表情に影が差した。

 「すでに、魔界には居ないのかもしれない」

 

 

 凍矢は、死んでいない。

 はっきりとそれを言葉として自覚すると、陣はそれだけで、潰えてしまいそうだった力が、わずかにでも戻ってくるような気がした。まだ何も、終わっていない。伏している場合じゃない。

 「ぐっ、あ……」

 全身を打ち据える激痛が和らぐ事はなかったが、陣はむしろそれを足がかりにするかのように、霞みかけていた意識を覚醒させた。

 視線の先、血の海に沈んだ凍矢の身体。子供のように、泣き出しそうに一瞬顔を歪めたけれど、涙を飲み込んで陣は、いつもより冷たくなってしまった凍矢の手をぎゅっと一度だけ握り締めてから立ち上がった。

 「まだ、諦めちゃ、なんねぇだな」

 それに、確かめたい事もある。

 「雹針、戦死したって聞かされてたとーちゃん達は・・・・・・本当は、オメが殺したんけ?

 自分でも意外なほど冷静に転がり出た声に、雹針は面白そうに笑って、あっさり肯定して見せた。

 「そうだ。直接私が手を下したのは閃だったが、連中の全滅は私が望み、全て裏で糸を引いていた」

 「・・・・・・・・・どう、して」

 「どうして? 息子のお前がそれを問うか。親子二代、揃いも揃って同罪だからに決まっているだろう」

 抜け忍は、万死に値する。

 魔忍の里に、深く深く根付いていた、鎖のようなそれ。怖れずに断ち切って、自分達を自由な世界へ連れて行ってくれようとしていた両親達。彼らを、雹針が。

 「凍矢の核さ返せ! 一緒に敵討ちしてやるだ!!

 清涼な風が、陣の足元から渦を巻く。白狼から発せられる冷気と混ざり合い、身を切るような、刃のような空気の流れが洞窟内をうねる。

 「どのようにして、白狼が霊界獣に乗り移ったかは興味があるが・・・・・・」

 雹針は、おもむろに氷の槍を現出させ、右手に握り締めた。左腕は、凍結した凍矢の核を保存しているカプセルを抱えている。

 「追及する時間が無いのが残念だ。極寒の化身について、もう少し研究してみたかったのだがな」

 嘲笑混じりの言葉と共に、むき出しの殺意が陣と白狼に向けられる。思わず固唾を呑んだ。一歩も引く気は無いが、形勢逆転の糸口が全く見えない。

 ―――霊界獣には悪いが

 白狼は一瞬だけ目を伏せた。 

 ―――我が盾になるしかあるまい

 前に出ようとする陣を翼で押しとどめ、白狼はありったけの力を集中させ始めた。しかし、そこへまるで不協和音のようにわりこんできた、招かれざる客の声が鳴り響いた。

 「雹針さんよ! 魔界がちっとヤバい事になってんぜぇ!

 黒鵺から逃げおおせた後、瞬間移動の魔法陣で入魔洞窟へと移動した戸愚呂であった。

 「っと、何だ。久々に本体か? まぁいいや。こっちもこっちで、大した惨状みてぇだけどな、とりあえず、癌陀羅総攻撃が失敗した。未確認だが、旧雷禅国の方も期待はできなさそうだな」

 「それは真か? ふん、どいつもこいつも使えん。吏将はどうした?

 「元裏御伽の死々若丸に、負けちまったってよ。とまぁ、そーいう最悪な状況になったわけだから、オレも個人的な復讐は一時中止して、戻ってきてみたって事さ」

 一片も悪びれず、しゃあしゃあと言ってのけた戸愚呂は、軽く肩をすくめて見せた。彼の言葉の裏を読んだのか気に止めすらしないのか、雹針はどちらとも取れそうな面差しで「そうか」、とだけ返す。

 「やむをえんな。急ぎ、魔界へ戻るとしよう。・・・・・・我が復讐も、どうやらもう少し楽しめそうだからな」

 雹針が、凍矢の核を納めたカプセルを抱える力を、わずかながら強めた。

 「に、逃がすか・・・・・・! 凍矢の核さ返せ!!

 満身創痍であるのが信じられないくらいの力強さで、陣は白狼の制止を振り切り、雹針に飛びかかろうとする。

 だが雹針は槍を振りかざし、難なく陣を地面に打ち据えた。無様に転がされ、だけど短い悲鳴を噛み殺して陣は、なおも立ち上がる。しかしもはや、重心が定まらずふらふらで、風も乱れていた。

 「戸愚呂、凍矢の身体を持って来い。まだ利用価値がありそうだ。永久凍土に封印すれば、少しは生命維持もできるだろう」

 「へへへ、お安い御用だ」

 戸愚呂は調子よく請け負ったがしかし、白狼が翼を壁のように広げて立ちはだかる。

 「退け、外道が。この先は、一歩たりとも通さぬ」

 そして翼の向う、立っているのもつらいはずの陣が、凍矢の前に、彼を守るために仁王立つ。

 「白狼、いよいよとなったら、凍矢連れて、オメさだけでも逃げてけろ。・・・・・・雹針にケンカ売りにきたってぇのに、こんな奴に負けるわけにいかねぇだ」

 「邪魔すんのかよ、鳥類なのか哺乳類なのかもわかんねぇ輩と、ズタボロな負け犬の分際で!

 げらげらとのけぞって笑うと、戸愚呂はそのゆがんだ面差しのまま、右手の指を五本とも鋭利に尖らせ、白狼に向かって一気に伸ばした。

 はずだった。

 「デビルヨーヨー!!

 洞窟の壁に、聞き慣れた威勢のいい声が跳ね返る。かと思った刹那、長く伸びた戸愚呂の指達に、鈴駆が放ったヨーヨーが正確にぶち当たって五本全部を不自然な方向に折り曲げていた。

 「あーもー!! イチガキのじーさんといい吏将達といいトドメにこいつといい、どうして忘れた頃に出ばってくるんだよ!

 「弟の方にガチコン食らわされた時点で、潔くくたばっとけってんだ」

 「同感だ。全く見苦しいことこの上無い。暗黒武術会準優勝チームの中枢が、堕ちたものだな」

 苛立ちをぶちまける鈴駆に続いて、酎と死々若丸も臨戦態勢をとりつつ現れる。とはいえ、万全の状態とはいえない死々若丸のすぐ隣には、当然、鈴木が控えていた。不適に笑いながら、軽口を叩く。

 「陣! とりあえずお前、説教部屋行き覚悟しろ!

 全身を襲う痛みも忘れて、陣は呆然と仲間達に目線を向ける。肝心な事を黙ったまま、裏切るように単独行動に走った自分の元へ、彼らは当たり前のように駆けつけてくれた。血を流しすぎて、末端神経から体温が引いていっているのに、胸の奥が熱く震えて涙腺に響きそうになる。

 「・・・・・・・・・勝手して、ごめんだべ」

 ぽつり、か細い声が震えた。

 「あああああああ!! どいつもこいつも邪魔しやがって!!

 半狂乱になった戸愚呂の叫びに、陣はハッとして弾かれたように向き直る。折れた指があっという間に、ポキポキ音を鳴らしながら本来の形に矯正された。改めて攻撃態勢に入ろうとした戸愚呂だったが、雹針がため息混じりに制する。

 「もうよい。退くぞ・・・・・・やむをえん、か」

 後半はほとんど独り言のようだった。つまらなさそうに呟くと、雹針は自分と戸愚呂の足元に氷の膜を張った。すると次の瞬間、嫌というほど見覚えのあるあの魔方陣が、その膜の上に描かれたではないか。

 えっ、と思う間も無く、雹針と戸愚呂はその魔法陣の中へ吸い込まれるようにして消えた。その直後、氷の膜はパリパリとひび割れ、粉々に砕け散ってしまった。

 「ちょ、待っ、何あいつ! 本当は、魔法陣書いた紙無しで瞬間移動できんのかよ!!

 面食らった表情から、一転怒りを露にして、鈴駆が叫んだ。

 「あの紙が無ければ、瞬間移動できないと思い込まされていた、というわけか」

 死々若丸が忌々しそうに吐き捨てた。相手がいつ魔法陣の紙を取り出すかに気を取られていたため、完全に虚を突かれた格好となってしまった。

 「逃げられ、た・・・・・・逃がした?

 途方に暮れたように、陣が呟く。やっと隠れ里を見つけて、直接対決に持ち込んで、すぐそこ、目と鼻の先に確かに奴はいたのに。

 凍矢をこんな目にあわせたばかりか、両親を殺した仇だと、新事実が明らかになったのに。

 「負けっぱなしでねぇか・・・・・・凍矢一人、助けられ、ね」

 取り残された親友の身体をふりかえり、すまねぇ、と唇が震えた。そしてとうとう、がくんと陣の四肢から力が抜け落ちる。

 「陣!!

 地面に倒れこむ寸前に、抱きとめてくれた腕は、自分の名を叫んだ声の主は、鈴木だろうか。

 そこまで思考がめぐったのを最後に、陣の意識が暗転した。

 

 

 「凍矢が冬眠状態のまま核移植されて以降、我の意識や妖力は魔界のそこかしこに霧散し、無力化していた」

 鈴木らが陣と凍矢の身体を救出し、魔界に戻り、真っ先に向かったのは百足だった。時雨が戦線復帰し、医療システムやマシンが完全復旧したと、次元のひずみを通る直前に77戦士宛の一斉送信メールが入ったのだ。陣と凍矢を時雨に託し、無理を通そうとする死々若丸の治療も合わせて頼んだ所で、連絡を受けた蔵馬と黒鵺が合流。(幽助は念のため、旧雷禅国に残る事にした)

 さらに、黒鵺の所在がハッキリしたため、痩傑、九浄、棗、流石も百足に駆けつけた。そこでようやく人心地ついたところで、白狼がここに至るまでのいきさつを説明し始めたのだった。

 「自分の状態を把握するのにさえ、時間を要した。層を越えて散らばってしまった妖力と意識を、懸命に集めていたのだが、なかなかうまくいかない上に、やはり凍矢が核を封印されている状況では、小狼形態ですら現出できなかったのだ」

 専属召還魔獣とその主という枠を超え、信頼しあう友と認めるからこそ、白狼は何とか己の力を顕現させて、六人衆はじめ77戦士に協力し凍矢を助けようと必死だった。そんな時彼は、雷禅の忘れ形見の心から生まれた霊界獣の事を思い出す。

 「この霊界獣は、かつて死者の霊を憑依させていたらしいな。我はもちろん死者とは違うが、実体を持たぬ精神体は限りなく霊に近い存在のはず。散ったままの妖力はまだ半分ほどしか戻っておらぬが、霊界獣の身体と力を借りて、とにかく77戦士と意思疎通ができればと思い、実行に移したしだいだ」

 百足の大広間。そこに短距離瞬間移動で入り、天井につっかえてしまう長い首をお辞儀するように下げて、プーの身体に宿った白狼は状況説明に一区切りつけた。

 幻海が憑依した時よりも、貫禄というか目力というか、ますますプーがプーで無いような印象をもちながら、酎は問いかけてみた。

「オメーはオメーで大変だったんだな。んで、とっちらかったあともう半分の妖力は、いつ戻るんだ?

 「ここからが大変なのだ。凍矢の力を媒介にしないと、難しい。やはり、核凍結の解除と本体への移植がなされぬ限りは、我も本体で現出する事はかなわぬだろう」

 「その核凍結の解除、ってのがまず、よくわかんないんだけど」

 鈴駆が腕組みして唸る。

 「またしても核の方は雹針が持ってちゃったしさ、このままだと凍矢はどうなるわけ?

 「凍結解除は、核そのものよりも本体の治癒が肝心だ。ここの設備と時雨とやらの腕前ならば、身体の回復に連動して核も再鼓動を始めるはず。しかし今凍矢の核は、雹針の妖力によって作成された、あの保存用カプセルに閉じ込められてしまっている」

 「それが、そんなに問題なの?

 鈴駆の隣で、流石が白狼を見上げた。

 「あのように隔離されてしまっていては、身体の回復がうまく伝達できようはずも無い。本来なら凍結解除が進む事により、身体の治癒も相乗効果で加速するのだが、それも不可能だろう。このままでは凍矢は、植物状態が続いた挙句に力尽きる。やはり雹針から一刻も早く核を取り戻し、カプセルから解放した後に本体へ戻さなくては」

 「つまり、今は凍矢が命がけで時間稼ぎしてくれてる状態、ってことか」

 黒鵺が、重々しい声で呟くと、広間に胸の詰まるような沈黙が下りた。

 「・・・・・・もう一つ、気がかりな事がある」

 白狼が小さく羽を揺らして、新たに切り出した。

 「凍矢の核が本体に戻った、あのわずかな一瞬、彼の記憶が我が意識に流れ込んできた。核が隔離され、雹針の本体の元に置かれていた時の記憶がな」

 「お、何かわかった事でもあんのかい?

 酎の声が少々弾んで、白狼が頷いた。しかしその面差しからして、あまり喜ばしい新情報ではなさそうだ。

 「雹針は今もなお、妖術研究を続けている。古代の魔界文字、それも暗号で書かれた書物に囲まれている映像が見えた。すまんが、見えたのはほんのわずかな時間ゆえ、我にも解読はできぬ。だが雹針はどうやら、人為的に災害を起こす以外の妖術を、この先使う気でいるようだ」

 「あんにゃろう、今度は何しでかそうってんだ?! しかも、毎度毎度まわりくどいったらありゃしねぇ。男ならガツン! と拳で挑んできやがれ!!

 酎が苛立ち紛れに吠えるのを横目に、白狼は淡々と続ける。

 「もうお前達も知っているだろうが、雹針の妖術は生贄を要するものがほとんどだ。おそらくまた、操られたテロリスト達や魔忍達がその犠牲となるに違いない。覇王眼を手にした雹針は、兵隊を抱えずとも我々に対抗できる。奴に必要なのは、妖術につかう生贄だけだ。あの戸愚呂とかいう妖怪も、邪念樹から解き放ったのは配下にするためなどではなく、その異常なまでの生命力を生贄に利用するのが目的だろうな」

 「あぁ、多分それで合ってると思う」

 蔵馬がため息混じりに肯定した。

 「戦闘能力としてはともかく、あいつの生命力と回復力は不死身といっても過言じゃない。妖術研究家としては、垂涎もののサンプルだ」

 「問題は、その雹針が今どこにいるのかよね」棗が携帯を開いた「癌陀羅からは、まだメールが来そうに無いわね。新規メール問い合わせも、反応ナシ。向うもやっぱり掴めてないんだわ。とりあえず、魔界にいることは間違いないの?

 「というか、もう人間界にはいられないと思うぞ」鈴木がふりかえって答えた「入魔洞窟は、連中が身を潜めていられる唯一のエリアだったはずだ。首縊島はすでに、諜報部が監視している。それに、白狼が言った通り最新妖術で攻撃を仕掛けるつもりなら、魔界で機を伺っているに違いない」

 「とにかく、こっちは躯が復帰したし、陣の怪我が癒えれば役者は揃うんだろ?

 九浄が努めて明るいトーンの声を張り上げた。

 「どうせ、雹針が何やらかそうとしているかの詳細がわからないなら、オレらは万全の体勢を整えるしかないよな」

 「まぁこれまでのパターンからして、結局最後まで後手に回らされてるって事よね〜。あたしは雹針見た事無いけど、絶対今頃ドヤ顔してるんだろうな、やんなっちゃう」

 するとそんな、唇を尖らせた流石を見上げて、鈴駆は自らを奮い立たせるように言った。

 「だったらなおの事返り討ちの倍返しだよ!! ずっと不利だったようでいて、最後に派手な逆転かました方がカッコいいに決まってるんだから!!

 きっと、次で今度こそ終わる。得体の知れない力に振り回されるのも。大切な仲間が一人、欠けたままの状態も。

 

 

 赤ん坊の泣き声が聞こえる。徐々に近付いてくるらしいそれは、どこか聞き覚えのある、懐かしいものだった。

 「陣! 生まれただぞ。涼矢と魅霜んトコに、待望の第一子だべさ!

 見上げると、喜びと安堵で顔をほころばせた父がいる。手を引かれて促された先、母が上機嫌で手招きするそこに、若い呪氷使い夫婦が並んでいる。妻の方が、白い産着にくるまれた赤ん坊を、愛おしそうに抱いていた。

 「オメも抱っこさせてもらえ、今日からあんちゃんだぞ」

 父の大きな手が、幼い、まだよちよち歩きの陣の肩を叩いた。押し出されるように一歩踏み出すと、呪氷使いの女がやわらかく微笑みながら、陣と視線を合わせるようにかがんで産着を纏った赤ん坊を差し出してくる。

 小さな、壊れてしまいそうなほど小さな重み。体温。よろけながらも、陣はしっかりと両足を踏ん張って赤ん坊を抱える自分の腕に、いっそう力を込める。すやすやとよく眠る赤ん坊は、抱っこの相手が代わった事にも気付いていないのか、全く目を覚まそうとしない。

 つい、陣はおかしくなった。

 「こいつ、おとなしいだなぁ。ずっとねこけたまんまだべか?

 「いいや、死んでいるだけだ」

 突然、父がいるはずの背後から、全く別人のおぞましい声がした。ぎくりとしてふりかえると、そこで父が変わり果てた姿で絶命しているではないか。

 慌てて辺りを見回すと、母と呪氷使い夫婦も、無残な死に様で事切れている。

 赤と黒に染まる視界。鼻をつく血の臭い。自覚したとたん、陣の姿も現在のものに戻った。ずしり、と腕の中の重みが不意に増した。まばたきすらできずに、おそるおそる見下ろすと、血まみれになった凍矢が横たわっていた。

 意識が無く、ぐったりと全体重を陣に預けて。かたく閉じた瞼も、微動だにしない。

 愕然とした陣の視界を、新たなに何かが割り込んでくる。それは、彼の胸から『生えた』氷の槍。先ほどと同じ声が。身の毛もよだつような――雹針――の声が、耳元で囁かれる。

 「凍矢の死体だ。お前が殺した」

 

 

 ごぼ、ごぼり、と鈍い音がたて続けに陣の鼓膜を打った。覚醒したての意識が次に自覚したのは、目の前を覆う淡いオレンジ色。そこをまた、ごぼ、と音をたてて大きなあぶくが横切っていく。それが自分の呼気だと気付くのに、少し時間がかかった。

 全裸の身体に繋がれた、幾本もの管。顔の下半分を覆うマスク。オレンジ色の溶液。少し手を伸ばすと、円柱状の壁に触れる。確信した。これは、百足の医療カプセルだ。ついこの間、修繕と復旧のために借り出されてていたが、実際にこのカプセルの世話になるのは初めてだった。

 ・・・・・・そうだ、オラ入魔洞窟で雹針逃がしちまって、気ぃ失ったんだっけか。

倒れる直前の記憶を手繰り寄せた彼が、ふと横を見ると、何と、隣のカプセルの中に凍矢が収容されているではないか。

 「凍矢!!

 驚いて叫んだ声は、溶液の中くぐもり、泡に変わって消えた。もどかしそうに、陣は自分に繋がれた管を乱暴に引き抜いて、マスクも取り去り、カプセルを脱出しようと壁を叩いたり押したりと悪戦苦闘し始めた。すると程なく、どこかで長めの機械音が鳴り響き、溶液が足元から排水されていった。水位が下がり、視界が元の色彩に戻る。

 つづいて、プシュ、と空気の抜けるような音がして、カプセルがぱっかり開かれた。

 「何という乱暴な起き方だ。飛影でさえもっとおとなしかったぞ。怪我の治癒はすんだが、妖気の波長がまだ整ってはいないのだから、無理はするな」

 開いた箇所から、呆れ顔を覗かせたのは時雨だった。使え、と渡された大きなバスタオルを羽織った陣を、時雨は改めて凍矢が眠るカプセルの前へと促す。

 陣よりも、繋がれた管の本数が多い。喉の部分に、何やら小さな機械が取り付けられているのが見えた。陣の視線が何を気にしているのかを、すぐに悟った時雨が聞かれる前に答える。

 「あれは、24時間絶えず稼動する小型の人工呼吸器だ。今の凍矢は自発呼吸すらままならん」

 「それってやっぱ、核が無いからだべか?

 「あぁ。生命の根源とも言われる、最重要器官が失われた状態で、生きているのは奇跡だ。もちろん、このまま長く保つわけではないがな。傷の治癒も、とりあえず表面を塞ぐのが精一杯だった。これ以上は、核を戻さなければ進まん」

 「・・・・・・もうちっと、だったんだけどな」

 陣の声が昏く沈んだ。

 「あともうちっとで、手が届いたはずだったんだべ。だどもオラ、失敗しちまった。雹針の罠にまんまとはまって、凍矢を酷ぇ目に合わせちまっただ」

 傷はすっかり癒えたのに、全身を引き千切られそうな痛みが、自分の中で暴れまわっているかのようだ。

 くるまったバスタオルの端を、ぎゅっと握り締めて、陣はこつん、と額を凍矢がいるカプセルに押し当てる。

 「ごめんな、凍矢。オラ、結局何もできなかったべ」

 助けに行ったのに、逆に殺しかけてしまっただなんて。しかも逃がしてしまったあの男は、両親達の仇でもあった。父・閃らの死の真相にも迫れたかもしれないのに、結果はこのザマだ。

 鈴木との約束を反故にして、仲間達を置き去りにしてまで、一世一代の無謀な賭けに打って出た。その代償は、背負いきれる自信が到底持てないほど重かった。

 と、そこへ

 「やっと起きたか! こーの、たくらんけ!!

 金切り声をあげて、小鬼姿の死々若丸が飛んできた。その勢いに任せて、小さな足がバスタオル越しに陣の背中を蹴りつける。もちろん、一応手加減はしているし、何より小鬼の時なので大した衝撃ではない。しかしそれを差し引いても、今の一撃は軽すぎる事に、陣はすぐ気がついた。

 「死々若丸・・・・・・オメも時雨んとこいるって事は、どっかしら怪我してたんか?

 「べ、別にオレはどうということは」

 「癌陀羅で、土使い吏将と一騎打ちしてな。重度の打撲と一部内臓損傷、そして肋骨が三本折れていた。小鬼の姿になっているのは、病み上がりのせいで妖力消費が抑えられているためだ」

 「あっさりバラすなあああ!!

 ぷいとそっぽを向いて強がろうとした死々若丸に構わず、時雨が簡潔にそして的確に報告してくれた。

 「吏将と?! オラが入魔洞窟さ行ってた時だべか。・・・・・・って、あれからどんぐれぇ経っただ?

 「今日でちょうど三日目だ。死々若丸も、昨日の朝までカプセルに入ってた」

 「三日も・・・・・・雹針の動きは?

 「居所はわからん。だが、魔界には既に異変が起きている」

 「魔界中の瘴気の濃度が、不自然に急上昇しているんだそうだ」

 宙に浮いたまま、死々若丸が時雨の言葉を継いだ。

 「妖駄曰く、それ自体が、妖怪や魔界の環境に影響を与える事は無い、らしいが・・・・・・これまでをふりかえると、確実に雹針が絡んでいるに違いない。だとすると、必ず裏がある」

 「また、得体の知れねぇ妖術って事か。それはそうと死々若丸、吏将とやり合って勝ったんなら、あいつとっ捕まえたんけ? どこに拘束されてるだ?

 「癌陀羅の諜報機関に引き渡した。案の定、尋問で口を割らんから、意識を落した上で躯が奴の記憶を読み取ったそうだ。とはいえ、残念ながら今の所、目新しい情報は聞けていないがな。まぁお前が起きたのなら、話は違ってくるんだろうが」

 「へ?

 意味を図りかねて、陣は思わず間の抜けた声で首をかしげた。

 「躯曰く、『まずは、陣に教えたい事がある』だと。鈴木から聞いたところによると、白狼はその内容に見当がついている様子だったそうだ」

 「オラに・・・・・・? 躯は、百足さ戻ってんだべか」

 「今の時間は、司令室におられる」

 今度は時雨が答えた。

 「十分休んでからで構わぬと、躯様はおっしゃっておられたが・・・・・・」

 「んにゃ、今すぐ行くだ。じっとしてる気になれねぇべ」

 がしがしと乱暴に全身の水気を拭いて、陣は急いで修繕されていた自分の服に着替えた。

 「その前に!

 半乾きの赤毛をくい、と引っ張って、死々若丸がことさら目くじらを立てて見せる。

 「説教部屋に、連行させてもらうぞ」

 どこか拗ねたようなその口調を聞いて、陣は思い出す。死々若丸はもちろん、仲間達はみんな自分の目覚めを待っていてくれたのだ。

入魔洞窟にも、駆けつけてきてくれた。諦めてこそいなかったが、絶望的だったあの状況で、死々若丸の、酎の、鈴駆の、鈴木の声が聞こえた時、彼らの姿を視界にとらえた時、泣きたくなるほど安堵した。こんな自分を、まだ共に居させてくれるのかと。

 「ん、わかった」

 陣が表情を緩めて、頷いたのを確認してから、死々若丸はぽすん、と彼の赤毛の上に座り込んだ。

 「とりあえず、そこの入り口から出てまっすぐ、突き当りを左折だ」

 「オメ、着くまで乗ってる気だべか? 何か、態度のでけぇカーナビついてるみてぇだべ」

 「いや、おそらく死々若丸は今の自分の顔を見られたくないだけだろう」

 「時雨貴様! 後で斬るぞ!! あっさりバラすなと、さっきも言ったはずだ!!

 そこで初めて陣は、死々若丸の声が震えているのに気がついた。再会の安堵で泣きそうになったのは、自分だけではなかった。

 

 

 「・・・・・・気が進まねぇな」

 短く正直な返答を、黒鵺はため息混じりにこぼした。携帯電話の向うで、躯がかすかに苦笑している気配がする。

 『お前の気持ちもわかる。だが、陣には知る権利があるはずだ。この戦いにおいては、なおのこと』

 「真実だからって、何でもかんでも知ってりゃいいってモンでもねぇだろ。話だけで伝えるってんじゃ、ダメなのかよ。わざわざ雹針の目論見通りの事なんかしなくたって・・・・・・」

 パトロールの合間のわずかな休憩時間。そこに躯が電話をかけてきた。頼みがある、と。悠焔の地に陣と共に赴き、蘇空時読結界をはってはくれないか、と。吏将の記憶を読み取った躯は、その地でかつて何があったのかを知ったのだ。結界によって再生される映像を利用し、雹針が何を企んでいたのかも。しかしあえて、彼女は四強吹雪全滅の真相を陣に見せようとしていた。

 『両親達の死の黒幕が、雹針だった事実は既に、陣も知っている。知ったからには、詳細を求めているはずだ』

 「それはそうだろうけどよ、当時の光景がありのまま見えちまうんだぜ。陣一人で背負うにゃ、あれは酷ってもんだ」

 『・・・・・・一人で背負うには酷、か。だったら、やはり知らせるべきだな』

 「は?」

 『結界の映像を、凍矢は既に見させられている』

 いきなり冷水を浴びせられた気がして、黒鵺は目を見張った。携帯の向うの躯は、いつも通りの淡々とした口調だが、そこに複雑な感情が漂っているのがわかる。

 『お前と蔵馬が悠焔に行った時、そこで何者かに監視されていただろう』

 「あぁ、多分下っ端の魔忍だったんだと思うぜ。瞬間移動の魔法陣もあったしな」

 『その魔忍は、言玉を持っていた。再生された当時の映像を、余すところ無く記録するためにな』

 「・・・・・・まさか、雹針はそれを・・・・・・!

 『お察しの通りだ。持ち帰られたその言玉を、雹針は酒の肴に鑑賞していた。当然奴の五感を通して、凍矢の意識にも転送されたはずだ』

 うかつだった。どうして考えが至らなかったのだろう。四強吹雪全滅の瞬間を陣に見せようとしていたのなら、凍矢にも同様の仕打ちをしているのは当然の流れだというのに。

 「わかった、先に悠焔に行って待ってる」

 意を決して、黒鵺は通話を切った。気が進まない事には変わりないが、こればっかりは仕方なかった。

 きっと陣は、分かち合いたいはずだ。凍矢が今抱えているのと同じ、一番哀しい記憶を。自分も同じものを見たい、見る事になって構わないと、腹を括るだろう。そういう男だ。

 だったら、それに応えるしかあるまい。

 近くで同じく休憩中だった仲間達に、事の次第を簡単に伝え、黒鵺は悠焔目指して飛び立った。

 

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